理事長挨拶

ごあいさつ

 日本周産期・新生児医学会は, 世界でもトップレベルにある日本の周産期・新生児医療の水準を維持し、向上させることを目的としています。
 そのために、年二回開催される学術集会と機関誌の刊行を通して周産期・新生児医療に関連する研究、診療、教育の水準の維持と向上を図ってきました。
 2004年4月1日には全国の基幹・指定・補完研修施設と多数の暫定指導医のご協力を得て、周産期専門医制度のうち新生児専門医制度を発足させることが出来ました。2007年からの3回の試験で192名の周産期(新生児)専門医(Neonatologist)が誕生しました。2006年4月1日より研修受付が開始された周産期(母体・胎児)専門医(Perinatal Obstetrician)は2009年度に最初の認定が行われ95名が合格しました。専門医制度は国民の期待に応える事の出来る優れた知識と練磨された技能と深い人間性を持った臨床医の育成に役立つだけでなく、厳しい環境の中で必死になって周産期・新生児医療を支える医師のアイデンティティの確立にも役立つことが期待されます。これからも周産期専門医制度を活用して、優れた臨床能力だけでなく研究マインドを持った若手医師の育成にも取り組んでいきたいと思います。
 万全の分娩体制を以ってしても出生時に順調な胎外呼吸循環に移行できない新生児は必ず一定の頻度で発生します。我々は「すべての分娩に新生児蘇生法を習得した医療スタッフが新生児の担当者として立ち会うことが出来る体制」の確立を最終目標として2007年7月から新生児蘇生法(NCPR)普及事業を開始し、既に18,000人を超える医療従事者が学会認定講習会を受講し、学会員を中心として1,200名以上の専門コースインストラクターが養成されました。シミュレーション方式の講習会は周産期医療に携わる多職種間の連携・チーム医療の促進にも役立っています。これこそ「安全で安心出来る周産期医療体制」構築への第一歩です。しかし、すべての周産期医療関係者が定期的に講習会を受講し、その内容を再履修するためには現時点では2箇所にしかないTraining Siteの全国展開やe-learning systemの導入などの体制整備が必要です。更には、本年10月18日には、国際蘇生連絡委員会(ILCOR)のConsensus2010が公表されます。これを受けてインストラクター養成講習会を含めたNCPR講習会の教材とプログラム内容の変更や更新講習会の立ち上げなどが急務となっています。
 本学会は従来、学会員の経済的利益誘導のための政治的活動には消極的でした。しかしながら、昨今マスコミを賑わしております周産期医療の崩壊の危機の根源が、産科医師や新生児科医師不足にある状況では当学会としても現状分析を踏まえて積極的な政策提言をせざるをえなくなってきました。
 当学会は平成21年3月に名取道也前理事長名で「新生児集中治療病床の運用を確保するために不可欠の対策の早期実施に関する要望書」を厚生労働大臣宛に提出しています。そのなかの幾つかの重要な項目はその後、厚生労働省の社会保障審議会の保険および医療部会で素案化され、中央社会保険医療協議会での審議を経て、今回の診療報酬改訂や22年度厚生労働省補助金事業で採用していただきました。厳しい財政状況の中でご尽力下さいました政府、厚生労働省はじめ関係諸方面の方々に深く感謝いたしますとともに、残された項目についても一日も早く実現していただくように今後も働き続けねばなりません。同時に、今回の政策が、現場で働く周産期医療関係者の負担軽減や、勤務体制と待遇の改善につながっているかどうかを検証する必要もあります。特に女性医師への支援制度を具体的に提言していくことは周産期・新生児医療の充実には不可欠です。
 医師不足は周産期・新生児医療供給体制の根本を揺るがす大問題となっております。今ほど本学会が会員の皆様の力を必要としている時はありません。理事会を始めとする執行部は国民に安全で希望の持てる周産期、新生児医療を提供するために鋭意努力を続けていく所存ですが、会員の皆様におかれましても積極的にご支援・ご協力下さいますよう改めてお願い申し上げます。

 
日本周産期・新生児医学会理事長
田村 正徳